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UAE (アラブ首長国連邦)のイケア(IKEA)による実験キャンペーン「Bully A Plant: Say No To Bullying(植物をイジメる:イジメにNoと言おう)」が話題になっています。

海外での批判

キャンペーンの概要は、こちら↓の動画で確認できます。

実験の概要を伝える動画を見ると、1ヶ月間毎日良い言葉を浴びせられた植物はイキイキと元気な状態なのに比べ、悪い言葉を浴びせられ続けた植物はすっかりしおれ、色も抜けてしまっているのがわかります。

日本では使い古された感もあるこの実験ですが、海外では
「インチキだ!」
「植物に言葉なんてわかるか!」
「非科学的過ぎる!」
と炎上。時間共に落ち着いてきましたが、伝えたかったメッセージ(≒イジメ撲滅)よりも実験の信ぴょう性に世間の興味が集まってしまったようには見受けられます。

一方、日本においてはさほど話題にもならなっておらず、知っている人たちからも大きな批判の声は聞かれません

 

日本で批判が弱い理由

日本と海外の反応に違いが出たのは、なぜでしょう?

まず第一に「植物も悪い言葉でダメージを受ける」ということ自体、日本では「目新しくない」ということがあると思います。これまで散々言われてきたことですから、良くも悪くも反応に値しない(≒騒いでも、世間の興味をひかない)とも言えます。

そして、もう1つ、日本には「言霊を信じる」という意識的・無意識的なマインドがあるからだと、個人的には分析しています。

「植物も悪い言葉でダメージを受ける」という説に対する反感を持つ人が多いようであれば、ネットなどでの意見発信が盛んな現代の傾向として、たとえ目新しさのない実験であっても騒ぐ人が少なからず出るのが自然ですよね。好感度の高い大手企業であるイケアが行ったのであればなおさら、炎上のターゲットとされやすいでしょう。

しかし、日本では、「植物も悪い言葉でダメージを受ける」という説自体をみんなが信じるわけではなくとも、「そういう考え方もあるよね」程度にふんわりと許容されているため、騒ぐ人も少ないと考えられます。

 

言霊とは?

古来、日本では、言葉には神秘の力が宿っていると強く信じられてきました。
一度発せられた言葉は独立した力をもち、望むと望まざるに拘わらず、言った通りの結果になったり、何らかの影響を本人あるいは他人に与えるという、哲学的とも言える考え方です。

この言霊信仰は、古くは古事記の時代に遡る神道由来の考え方ですが、現在でも私たち日本人の生活に深く根付いています。

例えば、
「明日は雨が降りそう」
などと旅行前日に言って、実際に雨が降ると
「お前があんなこと言うからだよー!」
と冗談半分にからかわれることがありますが、このような会話が日本ほど一般的な国は少ないでしょう。

また、受験生に「滑る」と言ってはいけない等の忌み言葉も、多少は海外で耳にすることはありますが、それはあくまでも言われる相手の心理を慮ってのことだったり、ジョークとして言われる程度ということが多いように感じます。いずれにせよ、日本ほど、言ってしまったからといって、気に病む必要はないことです。

ましてや「忌み言葉を言うと、現実になる」などという発想は、シャーマニズム信仰が残る一部の地域を除くと、大変珍しいようです。

 

無意識下にある日本的価値観の特異性

やたらと「日本はスゴい!」「日本はダメだ…」など、他国に対する優劣をことさら強調するような風潮には違和感を感じることが多いものの、価値観上で日本マイノリティに区分される点は少なからずあるように思います。

それは、例示の言霊のような神道的・多神教的な価値観をはじめ、*トリセルフ考察*Dove(ダヴ) リアルビューティ・キャンペーンで取り上げた若い日本人女性の美しさに関する自己評価の低さなど、例を挙げればキリがないでしょう。

しかも、大抵そのような特異性は自分たちで意識するのが難しいですよね。コンテンツ輸出などの際には注意して調査等を行う必要があると言われる所以です。

 

チャレンジに積極的な「イケアUAE」

表題の「Bully A Plant」以外にも、イケアUAEは様々な面白い試みをしています。

最近では、「革新的な眠くなる印刷広告」とのコピーがつけられた雑誌付録でも話題になっています。

UAEの雑誌「good」の裏表紙に掲載されたイケアの広告が、そのまま切り離して誘眠グッズとして使える仕掛けになっているのですが、その内容が極めて本格的。

電源を入れると眠りを誘う音(ホワイトノイズ)とラヴェンダーの香りが放出される仕組みになっていて、写真立てのようにベッド脇に置くことができます。商品として販売しても良いくらいのクオリティと言えます。

こちらに関しては、日本に限らず、世界中で評価される広告となりそうです。

 


 

海外広告コンテンツは、法規制等の違いはもちろん、価値観などの違いから、日本でそのまま使えないことも少なからずあります。日本のものを海外に輸出する時も同じです。

しかし、価値観の違う場で作られたものは、私たちと発想が異なり、参考になることも多いと言えます。また、今回のように、コンテンツ評価に関わる日本的な価値観に改めて気づくケーススタディにもなります。

学びの多い海外事例、これからも気をつけてウォッチをしていこうと思います。