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1. はじめに

1-1. “トリセルフ分析”と“自己の三原色性”とは?

トリセルフ分析”と“自己の三原色性”は、数多くの行動者(消費者)調査の分析をしていく中で生まれた分析手法その基礎となる概念です。

トリセルフ概要(PDF)に概要をまとめましたので、まずはそちらをご覧頂くとわかりやすいと思います。

簡単に言うと、“トリセルフ分析”と“自己の三原色性”とは

分析対象者の自己像を3種に分類し、詳細に把握する手法(=トリセルフ分析)とその基礎となる考え方(=自己の三原色性)

のことを指します。

上図の通り、各自己像の重なり方によって、行動者が当該ニーズやウォンツに対して置かれている状況(満足なのか不満なのか、また、その満足/不満は妥当なものなのか)を詳細に把握できるため、未充足のニーズやウォンツを見逃すことなく、商品開発〜広告販促まであらゆる“マーケティング施策の芽”を発掘することが期待できます。

また、後述の通り、狭義のマーケティングだけでなく“自己分析”を必要とする様々な企業・組織活動や個人の問題解決にも適用できる思考法・分析法と言えます。

 

 

1-2. どのような場面で活用できるか?

入念な調査の上で商品を発売したり、広告を投入したとしても、実際の販売動向や商品寿命、広告効果などで調査結果から予測できない壁に行き当たることがありますよね。

そして、その原因を掘り下げていった際に
対象者の自己認識に思い込みや誤解があった
見栄などで意識的にぼやかされていた部分があった
などが判明したことのあるリサーチャーの方やマーケッターの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

このように行動者という素材そのものへの理解が不十分なために起こりがちな調査の課題を解決するために考えられたのが“トリセルフ分析”です。

要は、行動者の捉え方に抜けがあることで起こる事態ですので「抜けが起きないよう確認項目を3つに分割・明確化して把握する」という単純な考え方です。そのような前提で調査を組むことにより、行動者の置かれている状況を抜けなく、俯瞰的、且つ、詳細に把握し、様々なプランニングの精度向上が期待できます。

よって、マーケティング活動においては、行動者(消費者)への理解が必要なあらゆる調査・分析に活用できますが、特に商品やサービスの受容性調査のような川上の段階で行うことにより、広告・販促等のその後の川下の施策でも一貫したターゲット像をもって展開ができるので理想的と言えます。

また、狭義のマーケティング活動だけでなく、“自己の三原色性”を有するあらゆる対象に対して“トリセルフ分析”は活用が可能です。

いわゆる“個人”はもちろんのこと、企業などの組織にも“自己の三原色性”は存在します。

したがって、例えば、自身がより良いキャリアプランを考えたり、企業が人事の課題(例えば、離職率の改善など)の解決法を検討したり、或いは、非営利団体が地域社会との関係性向上の方法を錬成したりなど、対象者を深く理解することが不可欠な課題は、身の回りに数多く存在します。“トリセルフ分析”は非常にシンプルな分析法でもあることから、それらの課題に幅広く活用できると言えます。

 

 

1-3. “的外れの解消”はマーケットチャンス

私たちは、自分自身をどれだけ理解して、日々の行動を選択しているのでしょう?

行動者調査に携わったことのある方なら誰でも、自己理解ができていない人に自身のことを語らせる苦労を経験したことがあるのではないでしょうか。

例えば、グループインタビューで何かをストレートに質問したとしても、取りたい内容が確認できない(或いは、言っている内容について確信が持てない)ことは多いでしょう。なので、同じことを違う振り方で重複確認したり、ニューロマーケティングの手法を組み合わせることで、調査課題に答える結果を引き出すことになります。
※ニューロマーケティングについてはコチラをご参照ください。

人間は「自己が見えていない」がデフォルト設定。そう思って対象者と相対した方が調査漏れなどが出るリスクは少ないのが現実。
トリセルフ分析を活用する際にも、そのような前提に立って調査設計を行います。それにより、調査対象者が正しく自己理解できている時はもちろんのこと、自己理解ができていない時にも対象者の現実自己誤認が起きている構造等を見逃す確率が減ることが期待できます。

そして、“客観の自己”が見えていない状態が明確になった場合、物事に対して的外れに喜んだり、哀しんだりしている行動者の現状が浮き上がることがあります。
その“的外れ”な状態こそ未発掘のマーケットチャンスであったり、(マーケティング活動以外においても)直面する課題を解決するキーとなり得る“ダイヤモンドの原石”かもしれません。

昨今では、SNSのように行動者とのつながりを構築できる場や、行動者が「今いるシーン」に合わせた対話がしやすいモバイルアプリ、自社商品以外との連携などで多様な生活シーンの演出等を可能にしてくれるIoT、その他も各企業が独自に開発したツール(アマゾンダッシュ、ZOZO SUITS、等々)を含め、多くの技術が顧客に寄り添う手段を与えてくれつつある、パラダイムシフトの時期にあると思います。

そんな魅力的な手段に溢れる中、大切になってくるのは手段と組み合わせるべきコンテンツ
行動者を本人以上に理解し、彼らにグッと近い場所からの商品やサービス、ブランド作りとその伝達・やりとりを行い、時に的外れな彼らをより心地よい“理想”の状態に導いてくれるパートナーのような企業・組織が、少なくとも飽和市場の日本では求められているのではないでしょうか。
今、そこに乗り遅れてしまうと、顧客は次々と囲い込まれ、いずれ新規顧客と接触することさえ難しくなるマーケットもあるかもしれないとさえ感じています。

 

以上が、“トリセルフ分析”と“自己の三原色性”の概要になります。
次からの2項で、冒頭で提示させて頂いたトリセルフ概要(PDF)の内容を噛み砕いて解説していきますね。

 

 

2. “自己の三原色性”について

まずは“自己の三原色性”について解説しますが、この概念の正しい理解が、後述するトリセルフ分析を理解するベースとなるので、少し詳しく書かせて頂きます。その分、次項のトリセルフ分析については、細かい説明は省略して事例を1つ挙げさせて頂くに留めます。

2-1. 三原色性の見方

上記は、“理想”“客観”“主観”の3種の自己の相関性を表した図です。
その3種の自己の重なり方で、分析対象が“理想”に対して
『満足』『不満』のどちらか?
その満足感は妥当か?
という状況を推測することができます。

例えば、このようになります。↓

これら例では;

A-1(妥当な満足)=自身を客観的に理解できている上、“理想”も達成できている状態。例:「周囲を気遣いながら優秀な仕事をする」という理想が達成できている。
A-2(妥当な不満)=自身を客観的に理解できているが、“理想”を達成できていない状態。例:自分は「仕事の質には問題ないが気遣いができていない」という現状を理解しているが、理想は達成できていない。
A-3(的外れな不満)=実は理想を達成できていることが認識できていない(或いは、認識を避けている)状態。例:「周囲を気遣いながら優秀な仕事をする」という理想が達成できていることに、自分自身が気づいていない。
A-4(的外れな満足)=理想が達成できていると思い違いをしている状態。例:自分では「周囲を気遣いながら優秀な仕事をする」という理想を達成できていると思っているが、周囲からは認められていない。
A-5(カオス)=自身を客観的に理解できておらず、理想も達成できていない状態。例:自分の問題点を気遣い下手にあると認識しているが、実際には仕事の質に問題があり、理想も達成できていない。

となり、各々の状態取るべき行動が異なるのがわかると思います。

1つ1つの要素について、もう少し詳しく説明すると下記の通りです。


“現在の自分”を構成する要素は;
・科学的なデータや周囲の声などで確認できる“客観の自己”(を含む円形部)
・アンケート上など、自身の言葉で発せられる“主観の自己”(を含む円形部)
の2つに分けることができる。

さらにその2つの要素の関係性により;
– 正しく理解できている自己(水色(シアン))
– 知らない或いは意識的に認めていない自己()。
– 思い込み等の誤認をしている自己(ピンク(マゼンダ))
の3つにグループに分かれる。

そこに実現したい“未来の自分”のイメージである;
・“理想の自己”(を含む円形部)
という要素が加わると;
– 実現化された、または、実現化されたと認識されている理想の自己(ピンク(マゼンダ))
というグループが生まれる。

上記の自己は、ある意思的な行動に対して;
+ 影響力の少ない“客観の自己”()
+ 影響力の少ない“主観の自己”()
+ 優先度の低い“理想の自己”()
という関与の低い要素と;
+ 理想を達成できていおり、その理解もできている自己()
+ 客観的に理解できているが、理想的ではない自己(水色(シアン))
+ 理想を達成していることを理解していない自己()
+ 理想を達成していると思い込んでいる自己(ピンク(マゼンダ))
という関与が高い要素にわかれる。また、

意思的な行動に対して関与の高い4項目は、その状態から;
+ 問題のなく理想的な状態の“妥当な満足”()
+ 理想との距離を正しく理解している“妥当な不満(”水色(シアン))
+ 自分の理想的な状態が見えていない“的外れな不満”()
+ 誤解や自己欺瞞による“的外れな満足”(ピンク(マゼンダ))
と言い換えることもできる。そして、3種の自己が全く交わらない;
+ 自己理解も理想達成もできていない“カオス”(枠外)
と併せ、意思的な行動の満足度と妥当性は5つの状態に分けられる。


…うーん、どうでしょう?
字で書くだけだと、わかりやすさに自信が持てないのですが、口頭で説明すると皆さんスルッと理解してくださるので、「んっ?」となった方は、三原色性の図をプリントアウトし、該当箇所を指差ししながら読んでもらうとわかりやすいかもしれません。
また、トリセルフ概要(PDF)の2〜3ページ目にある用語定義も参考になるかもしれません。

このように、“自己の三原色性”の図を用いて行動者の3種の自己を把握することで、その現状での満足度妥当性を見ることができます。よって、それに対応する施策としての商品サービス広告販促等の企画や、その他マーケティング以外の各種企画にも活用することが可能です。

 

 

2.2 三原色性を活用する際の注意点

“自己の三原色性”を活用する際の、主なチェック項目を以下に挙げます。


分析できるのは“意識的な行動”のみ

“自己の三原色性”は、本人の意識や意思が働いていない行動には当てはまりません
つまり、「何となく買う」「何となく行く」等の意識や思考が薄弱な“低意思行動”ではなく、自らの意思や目的、意義の認識を持って行う“意思的な行動”の分析に使える概念です。

ちなみに、高額商品の購入など負担の大きい行動意思的な行動になる傾向が強いと言えますが、負担の大きい行動低意思で行ってしまうこともあります(高額商品の衝動買いなど)。
同時に、100圴での買物など負担の小さい行動だからと言って低意思行動だとは限らず、意思的な行動と低意思行動が混在します。

また、「値引き商品を買う」などの一見単純な行動の背景にも、意思的な行動と低意思行動が混在します。

基本的に、商品やサービスの企画を含め、各種のマーケティング企画で分析の対象となったり、喚起を目指すのは“意識的な行動”が主だと思いますが、稀にそうでないケースもあります。
イメージや思い込みは排除し、「行動が『何となく』ではないか?」という一点のみに集中して、“自己の三原色性”の概念が当てはまるか否かは判断してください。

 


「したい」+「できるかも」は伴っているか?

理想の自己”には「そのイメージ像があれば、必ず人は行動に移る」という特性はなく、
「そうなれたら良いけど、行動するまでではない/諦めている。」
など、その実現欲求が低かったり・実現を信じられなかったりすると意思的な行動の原動力にはなれません

なので、行動者が“理想の自己”に対して;
「実現したい!」「実現しないといけない!」
等の実現欲求の高さ
「実現できるかも」
という実現性への確信という2点を満たしていることが、意思的な行動が起こされるために必要な条件です。

もちろん、“理想の自己”はあるが、実現欲求+可能性への希望が伴っていない場合、その不十分な部分を刺激することもニーズ喚起の1つの方法です。
よって、調査などを通じて“理想の自己”の「したい」「できるかも」に対する阻害要素を発見した際には、
 それを取り除く方策があるか?
 取り除いた際に、充分な需要を喚起できるか?
などを検討することも価値があると言えるでしょう。

 


実行動までの距離を縮められるか?

「したい」+「できるかも」が伴っていることが確認できたら、その点について更に掘り下げ、購買や来店など「本当に行動を起こすのか?」という部分の確実性を上げていく必要があります。

そのために;

  1. 非常に強い欲求(ニーズ)/「そうしたい」程度の欲求(ウォンツ)/「そうありたいけど、行動を起こすまでではない」等、欲求度合いの高低
  2. 既にいつでも行動に起こせる状態/具体的な行動内容が未決定の状態/障壁が高くて行動に移す見込みが立ってない状態等の実現性への現段階の違い
  3. 「欲求が達成できる」という強い確信/「達成できるかも」程度の確信/「できないかも」という不確信等、欲求の実現性への確信度

の3つの“度合い”を考慮して、意識的な行動への欲求に対するソリューションを企画することが重要です。

例えば;

  1. 非常に強い欲求(ニーズ)があり、
  2. こちらがソリューションを示せばいつでも行動に起こせる状態で、
  3. 「欲求が達成できる」という強い確信を持っている。

ということであれば、実行動までの距離は非常に近く、何の問題もありません。しかし、1つ、或いは、複数の要素がそのレベルではない場合(そのような場合の方が多いです)には、何らかの策を打って実行動までの距離を縮めるか、残念ながら企画自体を諦める必要が生じることもあります。

 


定期・不定期のメンテナンスが必要

3種の自己は、経時で変化します。
それにより、行動の結果への満足度・妥当性も変動する可能性がありますので、トリセルフは定期・不定期で検証することがことが肝要です。

例えば、過去の調査結果から「行動者には○○という“客観の自己”がある」と思っていても、時間の経過と共に各々の自己像は変化しているかもしれません。“主観”で感じている自己像も変わっているかもしれませんし、“理想”の自己像や、それに対する実現欲求の高さや実現性への確信度も変化しているかもしれません。

ある時点での行動者特性をどれだけ理解していても、アップデートを怠ると、新しい発見の芽を自分で潰してしまうことにさえなりかねません。よって、前回の検証から時間が経った後にトリセルフを活用して何かの決断をする際には、必ずトリセルフに変動がないかの再確認をお薦め致します。

 

 

余談 “光の三原色”と“色の三原色”

学校で習った“色の三原色”と“光の三原色”、覚えていますか?

(画像出典:ウィキペディア)

色の三原色”は絵の具に例えられ、3色が混ざると黒に近づくというもの(減法混色)。
光の三原色”はカラーTV等の原理として説明され、3色が混ざると白になるというもの(加法混色)。

自己の三原色性”の図は“光の三原色”の色を採用しています。これは“自己の三原色性”の
3つの自己が重なることで、より明るい自己の状態へ近づく
という特性にならっています。

色と光の三原色、習ったのは中学?高校??
いずれにせよ、授業=漫画を読むor手紙を書くor睡眠時間としか思っていなかったあの頃の自分に「教科書に載ってること、思いがけず役に立っているよ」と、教えてあげたいものです(…教えたところで、言うことを聞くような子ではなかったですけれどね)。


 

以上が“自己の三原色性”についてですが、“3種の自己”は誰にでも存在するものですので、マーケティングや行動者調査を生業としていない方でも、感覚的に理解できるのではないでしょうか?

次は、この“自己の三原色性”を用いた行動分析の手法“トリセルフ分析”について、実際の事例を用いて解説します。

 

 

3. “トリセルフ分析”について

トリセルフ分析”とは、アプローチしたい相手である個人や組織を“自己の三原色性”に示される“理想” “客観”“主観”の3種の自己に分解・整理して解析することで、分析対象に対する理解の漏れや誤解を極力減らし、様々なプランニングの精度を上げることを主目的とした手法です。

実例が何よりわかりやすいと思いますので、ファンデーション(化粧品)の事例を挙げて解説します。
※具体的な内容は調査を実施した企業に属するため、数字や商品名はもちろん、具体的な課題やターゲット属性など含めて明示を避けている箇所が多くあります。あくまでも手法理解の補助として挙げる事例で、内容をご活用いただくものではりませんので、ご了承ください。

 

事例:ファンデーションの色選びにおける課題解決

プロジェクト概要

目標:ある行動者群が抱える「ファンデーションの色選びは難しい」という課題を解決するマーケティング企画の立案

フロー:1)「ファンデーションの色選びは難しい」と認識されている理由の把握
2)上記1)に対応できる自社の手段の洗い出し
3)企画化

1)「ファンデーションの色選びは難しい」と認識されている理由の把握

実施した調査
(A)課題及びターゲット再確認ための事前定量調査
(ファンデーションを日常的に使用している行動者の属性、(色に限らず)悩みや不満など未充足のニーズ&ウォンツの有無、使用している商品名、満足度、継続使用意向、それ以前の使用履歴、etc.などの詳細調査)

(B)素肌色の機器測定(“客観の自己”確認)
(C)自分の肌色の認識についての定性及び定量調査(“主観の自己”確認)
(D)「なりたい肌色」に関する定性及び定量調査(“理想の自己”確認)
※定性及び定量各1回で(B)(C)の両方を同時に確認

ファインディングス
・(B)結果:ターゲットの肌色は標準的であることが確認された。
・(C)結果:ターゲットが自分の顔の肌色を「黄色い」と感じている傾向が見られた。
・(D)結果:アンケート及びインタビューで、ターゲットは「肌の欠点を隠しつつも、ファンデーションを塗っていないようなナチュラルな肌に見られたい」という意向を強く示し、その実現手段として、自認の肌色に近い黄み寄り色のファンデーションを選択購入していた。
・(D)結果:肌色見本を使って視覚で確認すると「やや明度の高い標準的な肌色」が「自分の目指したい肌色」と評価される傾向が強かった。

分析結果概要
現実の肌色よりも「自分の肌を黄色い」と思い込み、その思い込みの肌色に近い「黄み寄り」色のファンデーションを塗ることでナチュラルな見た目を実現できると信じている。よって、メーカーが「標準的の肌色」とするファンデーション色よりも「黄み寄りの標準的な肌色」を好んで購入・使用する傾向が見られた。これにより、購入の瞬間には満足していても、実際に塗ってみると自分の肌色と合わずに不満に思う傾向が観られた。その不満の原因を自分自身でもわかりかね、「ファンデーション選びは難しい」と戸惑っている。
また、視覚で確認した「なりたい肌色」は、購入しているファンデーションの色よりやや赤み寄り(=標準的な色味)でやや明度が高いという事実も、仕上がりへの満足度を下げ、「ファンデーション選びは難しい」と感じさせるもう1つの原因となっていると考えられる。

2)上記1)に対応できる自社の手段の洗い出し

・ターゲットに合わせたファンデーション色の調整等の商品面での改良。
・「自分の本当の肌の色」を行動者に理解してもらうための広告販促キャンペーンの展開や、販売員教育の徹底及び接客トークの改良。
・明度を少し上げてもナチュラルに仕上がるファンデーションの塗り方等を広める販促キャンペーンの展開や、販売員教育の徹底及び接客内容の改良。
など。

3)企画化
上記2)でリストアップした各施策を取捨選択し、効果的な組合せで展開する。

—————

以上、分析のキーとなった要素を“自己の三原色性”に当てはめて書き出すと下図のようになります。

  • 客観:標準的な色み及び明度の肌色をしている。
  • 主観:黄み寄りの色で、標準明度の肌色をしている。
  • 理想:厚化粧感のないナチュラルな肌になりたい。
    (具体的な色として、発言上では“黄味寄り色”を志向し、視認では“やや明度が高めの標準色”を志向している。)

以上の分析により;

[1] 客観と主観の自己に乖離があることで、行動者は誤った理想達成の手段(=黄み寄り色のファンデーションを使う)を採用している最中で、“的外れな満足”の状態にある。現在は、その“的外れな満足”の魔法が解けかけて困惑している。
[2] 理想の自己を実現するため鍵は「実際の肌色より明度をやや明るくしつつ、厚化粧感のないナチュラルな仕上がり」という明度調整と“ナチュラル感”の実現であって、色みの調整ではない
[3] 本当の理想の自己像正しく言葉で表現できておらず、それが客観と主観の自己の乖離と合わさり、「ファンデーションの色選びが難しい」という悩みの原因をさらに見えにくくしている

などを見て取ることができます。

なので、実際の企画としては、商品やサービスの改良と併せ、行動者の中で凝り固まり、トリセルフをもつれさせている「自分の肌は黄色い」という思い込みを修正した上で「ナチュラルな仕上がり」を商品やカウンセリングなどのサービス面で実現することが大切になってきます。

 


以上、いかがでしょうか?

事例では、機器による肌色の測定が“客観の自己”を抽出するキーになりましたが、この部分は、課題により適切に選択していくことになります。機器測定に限らず、様々なデータの活用が見込めます。
主観”と“理想”については、事例同様にアンケート等の調査をすることが多いと思いますが、各企業等が持っているデータなども補完情報として使えることがあります。

ちなみに、事例に関して、上記では例示していない別の行動者群もおり、そのグループも“客観”と“主観”の自己の乖離により「ファンデーションの色選びは難しい」という課題を抱えていました。そのグループは「歳を重ねることで自分の肌色が変化していることに気づいていないために“客観”と“主観”の自己がズレてしまっている」という状況にありましたので、事例のグループと同じ「ファンデーションの色選びは難しい」という課題を抱えてはいるものの、その背景や打てる企画も全く異なることがわかりました。

このように、表面化している課題が同じでも原因が異なるという事実を発見するのにも、課題の“根っこ”である「自己」を分解して捉えるトリセルフ分析は有効と言えます。

 

 

4. まとめ

マーケットインは終わった。再びマーケットアウトの時代だ。」という声を聞いて久しいです。
飽和市場を多く抱える日本においては、理解できる考え方ですよね。
未充足のニーズそのものが拾いにくくなっていますし、特に昨今は、商品やサービスの投入などあらゆる面で、決断の早さがキーになることは多いでしょう。その点ではマーケットアウト有利かもしれません。

しかし、そんな飽和市場でも、掘り起こし方を変えてみると、まだ充たされていないニーズ&ウォンツは発掘できるようにも感じています。

事例のように、行動者は自分の欲しいものを誤って選択していることがあります
個人であっても組織であっても、私たちは容易に誤った“主観”を持ち、“理想”への誤ったステップを選択してしまいます。しかも、誤りが自己理解の時点にあるということに思い至らず、ただ困惑したり、「そういうものだ」と勝手な納得をして気持ちを収めていることもあります。

そのような一見不可解な困惑や、何となくモヤモヤとした状況を市場で感じた時に、トリセルフ分析は特に有効です。「行動者は自分を客観的に見ることはできない」という前提に立ち、その自己を詳細に分解していくと、霧が晴れるようにモヤモヤの背景にあるニーズやウォンツを理解できることがありますので。

マーケットアウトも大切ですが、深い理解からマーケットインした商品や施策は、より長期的な利益を組織に与えてくれることもあるのではないでしょうか。

冒頭の「1. はじめに」内の後半にも触れましたが、現在はマーケティング上の重要なパラダイムシフトの時期にあり、各企業による顧客の囲い込みが急激に進んでいます。この「顧客の囲い込み」に大切なのが深い行動者理解であり、いくら最新技術等を取り入れたアプローチをしていても顧客がついてこないようであれば、顧客理解の深さ疑ってみても良いかもしれません。

“妥当な満足”を達成する手助けができたり、行動者に「手助けをしてくれている」と認識してもらえることは、まず、購買促進などの一時的な利益につながります。そして次に、企業やブランドなどへの信頼につながり、行動者との継続的で健全な信頼関係を築くことも期待できます。
これこそが、顧客の囲い込みが激化している現在&今後に、最も必要とされる行動者との関係であると言えるでしょう。

思い当たる点がある方は、ぜひ、トリセルフ分析をお試しください。