LINEで送る
Pocket

皆さん、“補正下着”をご存知ですか?

念のためご説明しておくと、(体型)補正下着とは、文字通り“体型を整える下着”のこと。着用している時にスタイルが良く見えるだけでなく、毎日着用し続けることで、脱いだ時の体型そのものまで美しく整えることが期待できると訴求している商品をよく目にします。

例えば、四角や星型などの“変形スイカ”を見たことあるかもしれませんが、
「脱いだ時の体型まで整える」
というのは、かなり大雑把に言うと変形スイカと同じ原理です(…大雑把過ぎですかね?)。

未成熟のスイカを四角や星型のケースに入れるとその形通りに育つように、人の体型も多少は変えることができるそうです。骨格などは変えることはできなくても、脂肪は柔らかいので付き方を多少変えられるらしく、背中やお腹の脂肪は胸などに、太もも付け根の脂肪はヒップにグイグイッと移動させるように着用すると、スタイルが整って見えます。基本的に、脱げば たるんっ と戻ってしまいますが、正しく着用し続けることで脂肪の位置も変わってくると言われています(もちろん、着用をやめれば徐々に戻ってしまうのでしょうが)。

そういう原理のものですから、あまり締め付け感が強過ぎると使い続けられず(=継続使用による体型変化が見込めず)、緩すぎると補正効果が出にくくなるようです。

そのため、補正下着を市場展開するにあたって、まずは「効果&着け心地の良さの両立」という高度な商品品質の課題をクリアしなければなりません。体型は十人十色。胴の長さも、胸や腰の形も違う一人一人に「効果&着け心地の良さ」を提供するのはかなり至難のワザです。

その上で、さらに「正しく使い続ける」ことが効果実感のための必須要件
ただ続けるだけではなく、脂肪をグイグイッと適切に動かす着用法で使い続けなくてはなりません。

したがって、最初のサイズや商品選び、着用指導はプロのスタッフでなければ難しいでしょう。その後も、出産、老化、補正下着の効果など、様々な原因で変化していく体型に合わせて、プロの手で正しいサイズを選び直す必要性も生じます。
そして何より、「脂肪をグイグイッと移動させながら下着を着る」というのは、なかなかテクニックの要る重労働で、(動画などである程度学べるとしても)プロの実指導を複数回受けた方が心強いでしょう。

 

充分な品質の実現人材の確保及び教育…特に、人件費は大きいですよね。
本格的な補正下着高価になりがちなのには、そのような背景があります。
かく言う私も5万円ほどのボディスーツを買おうとしたことがあったのですが、洗い替え+効果を出すためのセットは20万円と言われ、お店を後ずさりして去った過去が、、、それ以前にも、別の補正下着を購入したのですが、初回の着け方指導以外はお店にも行かず、おまけに着けたり着けなかったりで、いつのまにかタンスの肥やしに。

 

このように長期で効果実感をしてもらう必要のある商材ですので、商品開発から販促まで、マーケティング全般においてトリセルフが大切になってきます。

まずは、“客観の自己”をサイズ測定などで確認すること。自分の体のサイズを正確に知らぬまま下着を選んでいたり、以前に測定してもらったサイズのままで何年も見直していなかったりすることは、ありがちですよね。あとは、カウンセリングによって体型を歪ませる原因を診断してくれるメーカーもあります。
そして、サイズ測定やカウンセリングの結果を伝えることで“主観の自己”と“客観の自己”の乖離をなくし“理想の自己”との距離感を知ることが初回購入時の出発点となります。

そこから、「正しい着用法」での「継続使用」のために、定期的なプロのチェックを必要とするのが一般的と言えるでしょう。

この継続使用の段階で脱落する人は少なからずいると思います(私もその1人…)が、その理由を友人等に聞くと、「お金がかかる」「効果が感じられない」「面倒」「飽きた」などが挙がってきました。

これらの理由、どう思いますか?

  • 「お金がかかる」=「いやいや、あなたお金あるよね? そもそも1回払えているし、年に何回も大金が出るわけではないし。」
  • 「効果が感じられない」=「言われた通りに使っていた? 効果が出る十分な期間使ってみた?」
  • 「面倒」=「それはわかっていて買ったよね?」
  • 「飽きた」=「何で?」

などなど、いずれもツッコミの余地が充分。少なくとも商品の使用中止に至る最大の理由ではない場合もあるように思います。

 

では、根底にある“使用中止の最大の理由”は何でしょう?

正式な調査はしていませんが、周囲の話を総合して分析すると「信じて使い続けるに至らなかった」が最大の理由のように感じられます。

例えば、脂肪をグイグイッと動かしながら着用するのは、確かに「面倒」で難しいので、それだけでも使用中止の理由にはなり得ます。しかし、少しずつ慣れてくるものですし、店頭でも「慣れるまで頑張って」と言われるように思いますので、慣れる時期まで信心が続かなかったとも考えられます。

いずれにせよ「効果が出た/出ない」の判断ができる適切な時期以前の段階での脱落。
「購入時に納得した効果を、十分な期間まで信じ続けられなかった」ということです。
お店で着用した時には効果が感じられたけど、自分で着けてみると効果がわかからない(or目が慣れてしまう)のかもしれません。

 

販売する側(企業及び販売スタッフ)に目を向けてみると、こういった事態を避けることが;
1)上手な販売者
2)上手ではない販売者
そして、そのような事態を;
3)問題視していない販売者
があるように感じます。

まず、3)は、ココでは除外して考えます。「初回販売で利益を出して、売り逃げをしてしまおう」ということですので、その企業なり販売員は“行動者との良好な関係構築に基づくビジネス”など考えていないでしょうから。

1)と2)の違いはいろいろあるでしょうが、大きなこととして;

  1. “客観の自己”“主観の自己”の更新が継続的にできているか?
  2. 到達可能な“理想の自己”を購入者と共有できているか?
  3. “理想の自己”までの道筋を小さな達成目標に分解し、購入者と共有できているか?

が、あるように思います。

a.について、“主観の自己”というのは、ポジティブにもネガティブにも、容易に“客観の自己”から乖離します。少しずつ効果が出ていても気づけなかったり、効果が出ていない理由を思い込みで解釈していまっていたり、放置しておくと少しずつ歪んでいく傾向があります。
その予防修正のために、こまめに購入者との接点を持ち、「“理想”までの距離感は縮まっていますよ」「自己流になっているけど、○○が難しいなら××しては?」等のインプットをすることが求められます。

しかし、そもそもお店に出向くことだけでも多くの人にとっては負担。効果が感じられていなかったり、サボりがちだった場合、販売員の方と顔を合わすことさえ気がひける人もいるでしょう。その重い腰を上げて来店してもらう施策はもちろんのこと、ネットなどを利用した来店時以外のコミュニケーションの重要性も見逃せません。

b.は、現実的な“理想の自己”像を購入者に抱いてもらうことです。

補正下着で、モデル体型になれるわけではありません。しかし、モデル体型にならなくても、客観的に見た“美しい体型”になることはできます。この到達可能な“理想の自己“を最終目標として購入者にイメージしてもらい、納得した上で購入してもらうことが、くじけさせたいためには大切です。

女性は往々にして「より細く、よりくびれを」と目指しがちですが、実はそんな高みに導かなくても購入者の満足は得られるかもしれません。

なので、「どうせなれない…」と購入者が途中で諦めてしまうような目標ではなく「どの箇所をどのサイズにできれば、どのように見えるか?」を行動者に理解してもらった上での、現実的な目標設定ということが大切になります。

c.は、あまりにもゴールが遠くて失望することを避ける目標を少しずつ変えて飽きさせないために必要なことです。

最終の“理想の自己”に達するまでに通過する小さな達成目標を段階ごとに設定することは、「少しずつゴールに近づいている」という購入者の自信を育て、飽きさせないために有効です。1つ1つの小さな達成目標は、具体的で、顧客が自分でも視認できる簡単な内容が良いでしょう。
ファッションでの着痩せの仕方など、他の方法も併せて提案できると“理想の自己”へ進んでいることが視認しやすく、また、鏡を見ることが楽しくなるので、より良いかもしれません。

同時に、この小さな達成の積み重ねは、商品や販売者への信頼につながり、ブランドロイヤルティの源となります。よって、購入者のことだけではなく、購入者に面と向かって不満や不安を言われる販売員の負担軽減に役立つとも考えられる重要な項目です。

 

以上のように、補正下着のマーケティング上ではトリセルフ分析が上手く回っていることが、非常に大切と言えます。 “理想” “客観” “主観”のいずれかの自己が見えなくなると、顧客が脱落する可能性が上がるでしょう。

これは、補正下着と同様に「継続使用」と「モチベーションコントロール」、そして、使用法の難易度の高さのように「使用の障壁」などがある商材では、似たような傾向にあると言えます。例えば、体質改善系のサプリメント、美白やアンチエイジング系の基礎化粧品、エステ、ジム、などなどが当てはまるかもしれません。

 

ちなみに、測定やカウンセリングなど、「人」を介したサービスを必須とするのが補正下着のマーケティングの定石です。しかし、その目的と効果を洗い直してみると、サービス提供の仕方をより柔軟に考えられる可能性があるかもしれません。例えば、“主観の自己”の補正を主目的としているシーンであれば、アプリ専用の測定アイテムで代替できる場合もあるかもしれません。

 

高いお金など、大きな負担をして手にした商品には、自然と大きな期待が掛けられます。
期待が大きい商品に失望すると、マイナス評価はより大きくなります。
逆にその大きな負担分〜それ以上の満足が得られると、プラス評価も比例して大きくなり、売上だけでなく、商品やブランド、企業などへのロイヤルティとして返ってきます。

ぜひ、トリセルフ分析を上手く回り、行動者の満足が溢れるマーケットになっていくことを期待しています。