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若い人はTVを観ない」というのは既に定説。このような記事もよく目にしますよね。↓
女子大生社長・椎木里佳「一人暮らししている大学生で、テレビを買ったという子を見たことがない」

テレビがなくても;

みんなそれで全然大丈夫。Netflix、hulu、それこそAbemaTVもあるし(笑)。それで事足りる。だからテレビはほとんど観てないと思います。ニュースもTwitterのトレンドでニュースも見ている
(出典:http://blogos.com/article/286647/)

というような言葉を、耳にタコができて取れてもまたできるくらいに、よく聞きます。

若者のTV離れの主な理由は;

  • ネット(特にスマホ)の普及
  • 娯楽の多様化
  • 相対的にTVが面白くない

など。確かにその通り。反論の余地もありません。

では、若者がどの程度TVを観ていないのでしょうか?
総務省が毎年発行している「情報通信白書」に記載されている情報が、調査の規模対象者の質などを考慮すると最も信頼できるデータの1つと思われます。


※抜粋(全世代、10〜30代)↓


(出典:総務省 情報通信白書)
※見えにくい場合は、出典元リンクから元データをご確認ください。
※白書の該当箇所の調査内容については、「平成28年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」の方が詳細に記されています。この調査の結果が、白書の一部として組み込まれています。
※2018年版がまだ出ていないので、2017の白書(2016年末の調査結果)の情報を引用しています。

10代と20代のTV利用についてのみ抜粋すると;

平日:[平均視聴時間 ] 10代:89.0分(1.5時間弱)/日、20代:112.8分(2時間弱)/日
[行為者率] 10代:69.3.%、20代:70.3.%
休日:[平均視聴時間 ] 10代:122.9分(2時間強)、20代:152.7分(2.5時間強)
[行為者率] 10代:77.1.%、20代:74.2.%

10〜20代、30〜50代、60代で各メディアとの接触の仕方のパターンが似通っており(新聞を除く)、確かに上の年代過去の同年代に比べて、現在の10〜20代はTVの視聴時間も視聴する人の割合も少なくなっています。なので、相対値として若者がTVを観ていないのは事実でしょう。

とは言え、10人中7人以上の10〜20代が、1日2時間前後TV観ているようです。

ちなみに、調査は日記式。調査票のTVの項を見ると↓


(出典:http://www.soumu.go.jp/iicp/chousakenkyu/data/research/survey/telecom/2017/h28mediariyou_nikki.pdf)

調査概要には;

対象者が同時間帯に行った複数の情報行動について記入することで並行利用(いわゆる「ながら利用」)についても把握した。
(出典:http://www.soumu.go.jp/main_content/000492877.pdf)

との記述があり、「TVをつけてLINEをしている」というよな「ながら利用」も取りこぼさないよう配慮されています。

とは言え、回答者の“自称”の結果が申告されるアンケート調査「ながら利用」データを取りこぼさないのは無理でしょう。
※視聴時間を計測する機器でも使えれば良いのでしょうが、今のところ大規模調査ではおそらく現実的ではなく「日記形式のアンケート表」が至善の策だとは思います。

また、調査票自体には、平行利用も含めた回答を促す際立った対策は見受けられません。訪問留置調査ですので、調査員の説明如何で記入してくれる人も増えるかもしれませんが。

しかも、調査票を見てわかる通り、この調査は回答者の負担が大きい(=記入が面倒)んですよね。
記入が面倒だと、1日分や数日分をまとめて記入する人もいるでしょう。その場合、覚えている行動をザックリ書くだけになりがちで、意識の向いていないメディア(≒「ながら利用」されているメディア)の割合は、時間・行為者数共に、実際よりは低く出てしまう可能性は否めません。

観るともなくただついていたTV」の存在感なんて、「ながら利用」とさえ呼べない「ただのBGM」。気になる言葉が聞こえて来たら顔を上げる程度ですよね。それでも、繰り返し耳に入る言葉や音楽は「いつ聞いた」という顕在意識には残らなくても、記憶や潜在意識には残るのですが、こういったアンケート調査ではデータから多少こぼれてしまう可能性を考慮した方が良いでしょう。

 

「いやでも、そもそも今時の若者はTV自体を家に置かないんでしょ?」
という話も、冒頭の記事をはじめ、まことしやかに言われています。

どの程度の若者の家にTVがないか?を同調査での結果を見ると;


(出典:http://www.soumu.go.jp/main_content/000492877.pdf)

TVが家にあり、自分も利用している」との回答は、10代:92.9%20代:91.2%
9割以上の若者のお宅にTVがあって、しかも利用していらっしゃるようです。

ちなみに、この「TVが家にあり、自分も利用している」という回答の値(9割強)と、前出のTV視聴行為者の値(7割強)とに乖離が見られますよね?
つまり、「家のTVを観ますか?」と聞かれて「YES」と答えているのに、日記では抜けてしまう人が2割もいるわけです。これはまさに「面倒な調査」での記入漏れなどが一因と考えられます。もちろん「調査期間はたまたま観なかった」という人もいるでしょうが、それが全体の2割にのぼるとは考えにくいでしょう。よって、記入者の負荷が大きいアンケートであるため、「うっかり漏れ」「面倒で飛ばした」等の出現率が高かった可能性が推測できます。

 

以上により、「ながら利用」等の漏れ分を考慮して、総務省の調査結果に少し下駄を履かせた数値が現実の若者のTV視聴実態だと捉えると、

10人中8人程度の10代・20代はTVに1日2〜3時間は接触している

と考えても良さそうです。
下駄を履かせなければ10人中7人強の10代・20代はTVを1日1.5〜2.5時間見ている」となります。「TVが家にあり、自分も利用している」と言う10代:92.9%、20代:91.2%と考えると「10人中9人」でも妥当でしょうが、視聴時間の長さとリンクさせても乖離が少ないだろう範囲として「8人」としています(視聴時間の長さを考慮しないなら「10人中9人」が妥当)。

 

「あんなに『若者はTVを観ない』って言ったり・言われている印象よりは観ているなぁ…」と感じたのは、私だけでしょうか?

若者は相対的にTV離れをしているが、世間で言われているイメージよりはTVを観ている」が客観的な事実だとすると、なぜそのような現実乖離が起きているのでしょう?

例えば、冒頭の記事は「1人暮らしの大学生」の話なのに「若者全般」と拡大解釈してしまうような現象もあります。その方がセンセーショナルなので、メディアがそのような解釈に誘導することもあるでしょうし、受け手側の思い込みもあるでしょう。

しかし、最大の原因は

若者が『TVを観ている』と発言するのをカッコ悪いと思っている

大人世代へのマウンティング

ではないでしょうか?

つまり、客観的事実以上に騒がれている「若者のTV離れ」の本性は、現時点では、視聴時間や行為者の減少以上に
TVへの憧れや愛着が減り、オワコンとして認識されていること
なのではないでしょうか。
「TV大好き」と言うことが格好悪いのなら、観ている人もわざわざ人前で言わないですし、観ていない人の声の方が大きくなるでしょう。

また同時に、「ネット(特にスマホ)の普及」「娯楽の多様化」「相対的にTVが面白くない」など、TVを観ないことを主張することで
おじさん・おばさん達の時代とは違いますから
というマウンティングができること大きな要因と考えられます。

他の世代に対するマウンティングは、若者→大人世代だけでなく、その逆も含めて、常に行われています。大人世代が「これだからゆとりは…」と、十把一絡げに言うのも同じことですよね。
マウンティングは、している本人たちは無自覚なことが多いのも特徴ですが、相手を否定することで自己肯定感がアップたり、同質(今回の例であれば同世代)のグループの結束感を感じさせてくれたりと、気持ち良く中毒性のある行為です。

このように、当初は「TV大好き」と言うよりも格好の良い尖った発言だった「TVは観ない」が、大人世代へのマウンティング力の強さから、今ではすっかり「若者の常識」として定着しているという構造が推測できます。

 

そもそも、10代・20代が「自分はTV観ない/要らない/無駄/面白くない」と発言し、冒頭の記事のように「周りの子も観ないよ」と付け加えるのが定型フォーマットのようになっていますが、

「周りの子って誰?何人??観てないって、どう確認したの???」

というツッコミは、果たしてどれだけなされてきたのでしょうか?

本投稿で取り上げた総務省による2017年の定期調査の結果についても、単純な「若者のTV離れ」としてメディアがレポートしているケースの方が、私が見た範囲では多そうです。例えば、このような報道のされ方が典型的でしょう。↓
「若者の「テレビ離れ」顕著に 10、20代はインターネット利用時間の方が長く」

若者が相対的にTV離れをしていることは事実です。しかし、「どのレベルで?」を正確に伝えず(受け手も内容をきちんと読む・聞くをせず)、キャッチーな見出し世間に受け入れられやすい内容(あるいは、メディア自体の思い込みや都合の良い内容)が一人歩きしている一例と言えるでしょう。

また、情報の受け手側からも目立ったツッコミがないので、大げさとも認識されずに拡散されていきます。

情報の受け手側には当事者たる若者たちも含まれるのですが、彼ら自身が「自分も友達もTVを観ない」と自称しがちです。
さらに、その自身友人他の同世代の人の自称の言葉を耳にして「若者だからTVを観ない自分」というレッテルを自分にペッタリと貼りつけ、不動のものとする傾向があるでしょう。


ニューロマーケティングの記事に掲載した図を再掲しますね。右端の「調整」が自身へのレッテル貼りのフェーズです。他人に認められた時はもちろん、自身の言葉であっても耳から入ってくると「認定」に近い効果があり、判断が強固になります。

これにより、たとえ「1日数時間TVがついている環境にいる自分」が“客観の自己”だとしても、「TVを観ていない」と自認して“主観の自己”を、時に無意識に作り上げてしまいます。
ウソをついている意識はなくても、多少観ているTVについては「なかったこと」になってしまいます。
意識や興味をもって観てはいなくても、TVが流す言葉や映像が耳目に入り、無意識の内に影響を受けている事実には気づきません

そのようなスパイラルで、

絶対値としての「TVを観ない若者」というイメージ像
※「TVを観ない若者」という相対的な事実が、絶対値のように拡散されている事実
若い人はTVを観ないから…」というのマーケティング上のトラップ

誰の悪気もないままに定着してしまっているのが、少なくとも前出の総務省調査が実施された2016年末時点での現状なのだと思います。

 

とは言え、この若者の相対的な“TV離れ”は、今のままだと、早々に絶対値としての“TV離れ”になるのではないでしょうか

今はTVがその場にある居場所があるから捨てていないだけで、気持ちはもう離れてしまっているようです。コストや機能などでちょうど良い代替があれば、居場所はなくなってしまいますし、今でも一人暮らしなどをキッカケに断捨離されてしまう対象のようですから。

 

最後に、若者自身の言葉の一例を引用します。↓

「なんとなく『TV観てる』というのが、恥ずかしいみたいに感じる人もいて、明らかにポーズで『TV観ない』と言っている人もいますよ。

やたら芸能ネタに詳しくて、芸能人の誰がどんな番組で、こんな発言していた…と話しているのに、『俺、TVあんまり観ないから』とか言う人がいて、みんな内心で『いやいや。あんた、めちゃくちゃTVっ子でしょ』って思ってるパターン。(笑)

別に、いかがわしいことでもないわけで、好きならネットでもTVでも、素直に観てるって言えばいいのに」(20代・女性)
(出典:https://sirabee.com/2017/09/10/20161284105/)

「TV好き!」と言うことさえ躊躇われるまでに地位が下がってしまったTV
様々な規制など(法律だけでなく、予算やスポンサーとの関係等も含む)で作れるコンテンツが限られた結果、規制が少ないネット動画等に視聴者を奪われているのは皮肉ですよね。

規制が必要になってしまった背景には、TV番組制作側の落ち度もあったのでしょうが、この点でも

言葉で批判していることと、好きで観ているコンテンツは違うこともあるよね

という“トリセルフのもつれ”も感じずにはいられません。

 

TVの未来」については、今と同じ形で続くことはないでしょうが、何らかの大逆転も起こり得るのかな?と個人的には期待しています。