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私は、ウェンディーズの「チリフライチーズ」が大好きです。
ウェンディーズが日本を一旦撤退した際には、「最近、食べに行ってなかったからだ…」と自分を責め(実際には、当時も黒字経営だったそうです)、それから連日チリフライチーズを食べに通ったほど。

今は「フレンチフライ チリ&チーズ」という商品名だそうで、ジャンク心を満たしてくれる逸品。家でも作れます(フライドポテトにチリコンカンをドバッとかけて、その上にチェダーチーズソースをドバッとかけるだけ)が、本当に美味しい。大好き。

競合にケンカを売る『We Beefin?』

どうでも良い前置きが長くなりましたが、米ウェンディーズがリリースした『We Beefin? 』を聴きましたか?

「Beef」は、ヒップホップのスラングだと「お互いを歌詞でディスり合う喧嘩」のこと。ここではハンバーグの牛肉とかけていますが、そのタイトル通り、マクドナルドバーガーキングに喧嘩をふっかける曲目も含まれています。

バーガーキングに対する「お前、ウチの古いメニューをパクったろ/Holding It Down」や
マクドナルドに対する「お前のアイスクリーム機、何でいつも壊れてんだよ/Rest In Grease」などはまだしも、
ドナルド(マクドナルドのピエロ)に「隠したいこと(*マクドナルドが冷凍肉を使用していること)があるから顔にペイントしてんだろ。シルク・ド・ソレイユに帰れ!/Clownin」など、、、
もはやただの悪口

想像以上の悪態っぷりに、「ウェンディーズ、どうしちゃったの?」という心配の情さえ生まれてきます。いずれにせよ、同社としては、マクドナルドおよびバーガーキングと「beef」をしたく、相手の反応を期待してのキャンペーンのようです。

「悪口」の背景

米ウェンディーズがここまでの過激なディスを展開するに至ったのは、おそらく、何らか事前に手応えを感じていたからでしょう。

例えば、1年前(2017.03)にマクドナルドが「2018年中頃までに、ほとんどのお店のクオーターパウンダーでは生肉のビーフパティを使用するようになります」とアナウンスしたツイッターに攻撃的なリツイートをして話題(18万件以上の「いいね!」、7万件以上のリツイート、7千件以上のコメント)になり、「マクドナルドは冷凍肉ウェンディーズは生肉」という印象を広めることができた等の背景が影響しているかもしれません。

このように、ハンバーガーチェーンの比較広告が盛んに行われている米国においても、今回のウェンディーズの『We Beefin? 』は、際立って攻撃性の高いキャンペーンだったと言えます。

日本で競合比較の広告が少ない理由

日本は他社との比較広告が穏やかですよね。
自社の比較広告(旧製品からのアップグレードを訴求するなど)は盛んに行われていますが、競合他社やその商品・サービスとの比較広告は、誹謗中傷などのリスクがあるとして避けられる傾向にあります。

正確に言うと、店頭などのレベルでは比較的行われています(スマートフォンのお店で料金プランの比較広告など見ますよね?)が、TV広告など商品やサービスの供給元の言い訳が通らない広告では、あまり盛んとは言えないでしょう。

比較広告に関する景品表示法上の考え方(比較広告ガイドライン)」にある通り、競合との比較広告禁止されているワケではありません

細かい規定はありますが、内容が客観的に実証されており、その事実が正確かつ適正に示されているのであればOKと言えます。比較広告が、自社の商品等を他社より優秀だと「誤認」させるのはNGですが、自社と競合の違いについて正しい理解を促し、商品選択を助けるものであれば良いという規定です。

もちろん、この「客観的な実証」「正確かつ適切な訴求」というのがかなりやっかいで、「自社に都合の良いデータのみを出す偏った広告」などと追及されることもあるでしょうし、リスクをゼロにするのは難しいのですが。

また、日本では「攻撃的な広告は消費者にも好まれにくい」ということも言われています。これは、広告表現の工夫でクリアできる可能性もありますが、比較広告が育ちにくい背景の1つとも言えるでしょう。

比較された側が得をすることもある?

例えば、米ウェンディーズの『We Beefin?』で、或いはをした(する)のは誰でしょう?

販売データなどが手元にありませんので推測にはなりますが、まず米ウェンディーズは『We Beefin?』が様々なメディアで取り上げられ、spotifyでも上位にランクされるなど、少なくとも広いリーチ等の広告効果は得ているでしょう。

同じく、攻撃されたマクドナルドバーガーキングについては、、、何か悪影響はあるでしょうか?

結論から言うと、『We Beefin?』を聞いて「マクドナルドorバーガーキングが嫌いになった/購買意欲が失せた」なんて人は極めて少ないと推測するのが妥当でしょう。もちろん、悪口を言われて良い気はしないでしょうが、聴き手からすると「悪ガキが過激な歌作ったね」程度の内容ですので、競合各社の致命傷になるとは考えられません

まず、各ブランドへのロイヤルティの高い人への影響は考えにくく、『We Beefin?』の内容によって、マクドナルド価格やメニューの魅力が減るとも、「ワッパーを食べる気が失せる」と言う人が続出するとも推測しかねます

そして、各ブランドへのロイヤルティが高くない人については、「ファストフードを食べよう」と思った時の選択肢として「ウエンディーズが面白かったから」等の理由でウェンディーズを選ぶ人もいる(いた)かもしれませんが、『We Beefin?』を聞いて「(どの店でも良いから)ハンバーガーが食べたくなった」とファストフードを食べに行った人もいるかもしれませんし、「マックのクラウンに会いたくなった…」とマクドナルドに行った人もいるかもしれません。

いずれも現時点では推測の域は出ませんが、少なくとも「ファストフードに多くの顧客の耳目が集まった」という点で、業界全体にメリットがあった(あるいは、対応次第で業界全体のメリットにつなげられる芽はあった)ということは確かなのではないでしょうか。

ちなみに、ウェンディーズの試みに対して、せめてバーガーキングは何か面白い仕返しをしてくれないかな?と、(予測ではなく)個人的な期待をしております。マクドナルドが相手なら応戦するところでしょうが、、、どうでしょうね。

業界を盛り上げる比較広告・盛り下げる比較広告

このように、比較された側の痛手が少ない比較広告であれば、業界全体を盛り上げてくれる可能性もあり、日本でも広がることを期待したいと感じます。

しかし、もちろん競合の販売に大きく影響するような比較広告もあります。

例えば、日本だと「ホンダ インサイト」発売にあたっての「トヨタ プリウス」vs.「ホンダ インサイト」では、血で血を洗うシェアの奪い合いになりました。両者が比較広告を出すと、商品名を伏せてももう一方のことだとわかりましたよね。

これは、車が高額耐久消費財であることが大きく関係しています。
購入頻度が低く価格が高い商品は、ファストフードやコーラ(ペプシvs.コカコーラ)のように「どちらも買ってみる」「購入頻度が上がる」などの市場拡大に繋がる行動が起こりにくいため、市場そのものを大きくする効果よりもシェアの奪い合いに終始せざるを得ないという宿命があるからです。

とは言え、「ハイブリット車」というカテゴリーへの注目を集めたという点では、業界を盛り上げた側面もあったと言えるでしょう。

例示は控えますが、競合のシェアを奪うだけで、市場全体には何のプラスにもならない比較広告もあります。特に、陰湿な叩き合いのような比較広告合戦になってしまうと、顧客は置いてきぼりにされる上に、気分も盛り上がることはないので、ブランディング等の長期的な視点では自社にとってもプラスな面が少ない広告と言えます。

比較広告の導入を検討する際の注意点などは「Journal of Marketing (American Marketing Association)」掲載の「Comparison Advertising Problems and Potential」に詳しいので、ご興味のある方はご覧ください。
特にP.11の「Table1 Tactical Issues in Creating Comparison Ads」は、戦術的課題を具体的にリストアップしていて参考になると思います。

比較広告の可能性

日本では、異業種とのコラボタイアップ広告は盛んに行われています。自身のシェアを減らすリスクがなく、お互いの顧客を共有できる試みとして、非常に価値があるでしょう。

そのような広告と同様に、競合にダメージの少ない比較広告と、プレイヤー同士だけでなく顧客のレスポンスも早くて臨場感が出やすいツイッターなどのSNSを活用して、競合同士でのプロレスを見せてくれるような試みも、顧客にとっては目新しく、ワクワクするエンターテイメントになり得ますよね。そのようなエンターテイメント性を出すことで、全体を盛り上げることができる業界というのもあるのではないでしょうか。

事例と同じファストフード業界で言うなら、「マックワッパー」という実現しなかった試みがあります。比較広告の要素よりも、同業者コラボの要素の方が大きい試みではなありますが。

米バーガーキングが、ビッグマックワッパーをレシピで比較しつつ「お互いの良いところ組み合わせたコラボ商品の発売を9月21日『平和の日』の1日だけ販売しよう!」と、かなり力を入れてマクドナルドに公開提案をした試みです。キャンペーンサイトを見るだけでも、バーガーキング側の入れ込み具合がわかるでしょう。

しかし、それに対するマクドナルド側の回答はコチラ↓


facebookを通じて大人な(しかし、「売名キャンペーンはやめて、真っ当な活動をしなさい」と暗に伝える辛辣な)言葉で断られてしまいましたが、このバーガーキングの試みの行方は見る側に大きなワクワク感を与えていたことは確かです。

ちなみに、「マックワッパー」が実現しないとしても、もう少し豊かなやりとりがあったとしたら、マクドナルド側へのメリットも大きくなっていた(少なくとも、メリットが出るような試みは考えられた)ように思えます。

実際、マックワッパーのアイディアは他の外食チェーンを刺激し、9月21日「平和の日」を啓蒙するキャンペーンとしてバーガーキングやデニーズを始めとする5つのチェーンのコラボレーションのもとに実現しました。


そして、マクドナルドが「マックワッパー」の提案を断る時に言及した「有意義で国際的な努力でコラボをしよう」という呼びかけも実現しました。
Global brands rally public support to World Food Programme and families affected by war
マクドナルドやバーガーキング、フェイスブック、ツイッター、グーグル、マスターカード、ドリームワークス、ユナイテッド航空などが、自分たちのもつメディアの広告枠を世界食糧計画に提供し、難民など戦争被害にあった家族をサポートする「平和の日」啓蒙キャンペーンを行ったのです。

 

シェアを奪い合うことも、もちろん必要です。
しかし、奪い合う市場のサイズ拡大するための道具の1つとして比較広告やそこから派生する同業種コラボを捉えてみることも、面白いのではないでしょうか。

 

それにしても米バーガーチェーンは、各々のキャラ分けが秀逸。

スマートでオトナな優等生・マックさん
目立ちたがり屋のお調子者・バーキンくん
マジメな子ほどグレるとパンク・ウエンディーちゃん

といったところでしょうか。擬人化漫画描けそうですね。