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Ticket to the Moon」という、インドネシアのハンモックメーカーの美しい広告が話題になっています。もうご覧になりましたか?

月がハンモックに!Ticket to the Moon

Ticket to the Moon - Zavannah Moon

Ticket to the Moon – Zavannah Moon

Ticket to the Moon - Desert Moon

Ticket to the Moon – Desert Moon

Ticket to the Moon - Canyon Moon

Ticket to the Moon – Canyon Moon

Ticket to the Moon - Beach Moon

Ticket to the Moon – Beach Moon

(出典:http://www.adeevee.com)

サバンナの月」「砂漠の月」「渓谷の月」「ビーチの月」と名付けられた4つのビジュアル。
それぞれの絶景の中で、ハンモックに見立てた月が美しく輝きます。
(一番上の「サバンナの月」はスマイルマークにも見えますよね。)

風景以外の要素としては、「ADVENTURE HAMMOCK SINCE 1996」というコピー商品画像が小さくあしらわれているだけです。

クリエイション誕生の背景

この広告が生まれた背景は、下記の通りとのことです。

いつも最高の場所を探し、木や崖などのたった2つの支えを使ってリラックスするハンモック愛好家の習慣にインスピレーションを得て生まれたこの印刷広告は、自然物と目の錯覚を利用して、ハンモック愛好家達がアドベンチャーで出逢う景色を楽しむと共に、快適さと静観さを表現しようという試みです。
(原文:”Inspired by the hammocker’s habit which always seeking for the best spot, relaxing by using only two hanging mediums, such as trees or cliffs, this Print Advertorial execution using nature objects with an optical illusion approach to represent comfort and calmness while they enjoying the sights on their adventure.”)

(出典:http://www.adeevee.com)

実際に「Ticket to the Moon」の公式HP公式SNSを見ると、「いつも最高の場所を探し、木や崖などのたった2つの支えを使ってリラックスするハンモック愛好家」の写真を数多く見ることができます。

 

「撮りたくなる写真」はSNSと抜群の相性

最高に美しい「Ticket to the Moon」の広告ビジュアル。
ただし、美しさ広告効果比例するとは限りません

「Ticket to the Moon」の広告に、果たして高い広告効果はあるのでしょうか?

ハンモックの購買前行動

ハンモックが欲しいなぁ」と思った時、自分ならどんな行動をしますか?

アマゾンなどでネットショッピングサイトで検索にかけたり、お店に出向いたりして、比較的すぐ購入する人もいるでしょう。その一方で、しばらくの間はネット画像を含む情報お店などを見て回り、イメージを充分に膨らませてから購入するという人もいるのではないでしょうか。

特に「アウトドア愛好家」のような方は、後者になりやすいでしょう。こだわりが強い傾向にあるため、他のアイテムとのコーディネート自分のアウトドアスタイルに合うアイテムをしっかりとイメージしてから購入したいと思うのが自然ですし、「最高のアイテムを探す」というプロセスそのものを楽しむ方もいるでしょう。

また、「ハンモックを探す」という目的ではなく日頃からSNSなどで自分のスタイルに合うアウトドア系のハッシュタグやユーザーをフォローし、イメージが膨らんでいる人もいるでしょう。そういった方は、「ハンモックが欲しいなぁ」と思った時には、既にいくつか、あるいは、1つの候補が頭に浮かんでいる(「ハンモックが欲しい」ではなく「Ticket to the Moonが欲しい」と感じている)可能性があります。

「自分事」化に便利なインスタグラム

そのような方にとって便利なツールの1つが、インスタグラムなどSNSハッシュタグ

例えば「#hammock」で見てみると、大抵はハンモックでリラックスしている人の写真です。その中で、自分のイメージに近い写真をクリックして、メーカーなどをチェックするかもしれません。あるいは、色々な写真を見ている内に他のハッシュタグが頭に浮かんで試してみたり、気になった写真についているハッシュタグから掘り下げていく人もいるかもしれません。

そのようにして、例えば「Ticket to the Moon」に行き着いた人や、「Ticket to the Moon」が既に候補として挙がっていた人は、「#tickettothemoon」「#tickettothemoonhammock」を見るでしょう。

そこには、一般の方の投稿ブランド側の投稿混在していますが、全体として見事に「アドベンチャー中にハンモックでリラックス」というテーマで集めたような統一感があります。投稿者がブランドの世界観とコンセプトに共感し、商品を愛用しているからこその雰囲気と言え、閲覧者にブランドロイヤルティが感染するほどの熱量が感じられます。

また、一般の方の投稿では、ハンモックを使う旅の仲間(ペット含む)自分表情に焦点を当てた写真も多く、そして何より写真が上手過ぎない傾向があります。それにより、自分自身が使うシーンや「自分が使った時にどんな喜びを与えてくれるか?」という自分を主役としたメリットが、具体的な絵として思い描けるのもインスタグラムの良いところでしょう。

「#tickettothemoon」「#tickettothemoonhammock」のように、アドベンチャー風景のワクワク感はもちろんのこと、ハンモックの吊り方を工夫すると面白い場所にもハンモックがかけられたり、非常に写真映えする美しい吊り方になったりなど、見ていて楽しく、自分がアウトドアに行く際の参考にもなるシーンが切り取られている投稿が多いハッシュタグは、商品やサービスの「自分事」化を加速してくれる強力なツールと言えます。

ハッシュタグの「空気感」

「Ticket to the Moon」ほどブランドの世界観を反映したハッシュタグは、商品やサービスのカテゴリーによって実現が難しいですよね。少なくとも、アウトドア用品のように「濃いユーザー」がいるカテゴリーであることが条件となるでしょう。

しかし、もっと「薄いユーザー」に支えられる商品カテゴリーなどであっても、盛り上がっているハッシュタグの多くには「統一された空気感」があることが多いと言えます。
これは、インスタグラムに限らず、ツイッターなどでも同じです。ツイッターなど言葉がメインとなるSNSでは、「空気感」と言うより、類似の心理的背景で発言している「共通の文脈」と言った方がしっくりくるかもしれません。

例えば、インスタグラムの「#hammock」であれば「アウトドアでハンモック、最高!」、一般的なタグの1つ「#instagood」であれば「いい感じの写真撮れたから見てー」というように、「統一された空気感(或いは「共通の文脈」)」がハッシュタグ全体を通して流れており、それに共感する人が投稿しているという構造を見て取ることができるでしょう。

 

投稿の「ヒント」を与える広告

そのような「空気感文脈」が大切なSNSのハッシュタグを宣伝に活用するには、どうしたら良いでしょう?

まずは、ハッシュタグに流れている雰囲気が自社や自ブランドにとって良いものである時には、その雰囲気を壊さないことが大切です。そして、インスタグラムであれば、その空気感に沿い、且つ、閲覧者が「自分も撮りたい」と思うビジュアルを投稿することが、効果的な選択肢の1つになります。

一般人の手で実際に撮れるか?は、全く重要ではありません
「撮りたい」と思った時点で印象が強く刻まれますし、実際に自分が撮れない写真だとしても「撮れるかな?」「(似たようなシーンを)試せるかな?」と感じて、その写真自体や映っているアイテムに注目してもらえることが重要です。

例えば、冒頭の「Ticket to the Moon」の写真を一般人が再現するのは難しいでしょうし、フォトショップで加工するにしても技術と手間が要ります。
しかし「撮ってみたい」と思って注目し、Adventure Hammockというコンセプトブランド名等を心に刻んでもらえれば、充分な効果と言えます。
…残念ながら、「Ticket to the Moon」はこの秀逸な広告ビジュアルを、現在のところはあまりSNS活用していません。雑誌等の紙媒体を中心に使われているようですが、今後に期待したいですね。

ハッシュタグが統一感をもって盛り上がっていない場合や、統一感はあるけど盛り上がりに欠ける場合で、且つ、そのハッシュタグに適切な「空気感」に対して自社が期待する程度の規模(≒受容性)が見込める時には、盛り上げるような投稿をしていくと良いでしょう。

盛り上げるためには、まず「欠けている投稿」を補う必要があります。具体的には、前出の通り、インスタグラムで商品を魅力的に見せたいのであれば、一般人が投稿しているような「自分自身が使うシーンや『自分が使った時にどんな喜びを与えてくれるか?』という自分を主役としたメリットが、具体的な絵として思い描ける」写真投稿を集めることが1案でしょう。

その際に、金銭等をインセンティブとするキャンペーンなど「商売」の匂いが強い施策は、空気感を損なうことがあるので注意が必要です。それよりも、心から愛用をしているスタッフの投稿などの方が効果がある場合もありますので、慎重な検討が求められます。

その上で、インスタグラムであれば、一般人が「自分も撮りたい」と思えるビジュアルを織り交ぜて投稿していくことにより、眺めている内に商品やサービスを「自分事」化してもらい、さらに「撮りたい」と思わせることで記憶に杭を打ち込む効果が期待できます。

 


 

イノベーター理論から『SNSの企業アカウント=転入生』と考えてスッキリ」の記事内でも言及した通り、発信したい一般人もそれを聞きたい・見たい一般人もたくさんいます。SNSをはじめとした各メディアが、発信+見聞きする場所も提供してくれます。

撮りたくなる写真」の広告上の最大の長所は、企業が主役ではなく、「この写真を撮って投稿したいな」と、見る人が自分を主役に据えて捉えることができる点でしょう。

「撮りたい!」と思ってもらえるビジュアルの広告は、顧客見込み顧客たちスターになるヒントを与えてくれます。

彼らを育て、自社の商品やサービスも育てるためのツールとして、上手に活用したいですね。