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最近、イノベーター理論について改めて考える機会がありました。
「発売後、あるグループしか捉えられずにいる商品を何とかしたい」という課題についてのブレインストーミングに参加する機会を頂いたことがキッカケです。

 

イノベーター理論(普及学)とは?

イノベーター理論(普及学)とは、商品/サービス/考え方など新しい価値が普及する際に、その採用(商品であれば“購買”)が早い順に行動者(消費者)を5つに分類する手法のことで、順に以下の通り(%は各層の市場占有率)となります。

  • イノベーター(Innovators/革新者):2.5%。
  • アーリーアダプター(Early Adopters/初期採用者):13.5%。
  • アーリーマジョリティ(Early Majority/前期追随者):34.0%。
  • レイトマジョリティ(Late Majority/後期追随者):34.0%。
  • ラガード(Laggards/遅滞者):16.0%。

革新的なモノ・コトに市場展開に際して、商品やブランド、サービス、或いは、概念などを定着させたり、比較的長いライフサイクルで展開させるためのマーケティングアプローチを考える際に参考となる考え方です。

 

SNSでの企業アカウントは“声の大きさ”に注意!

そのイノベーター理論について、冒頭のブレインストーミングへの準備としてまとめ直していたところ、その目的とは別に、SNSの企業アカウント運営に関して「あぁ、そうか」と腑に落ちたことがありました。

少し長文になるので、先に結論だけ言ってしまうと
企業アカウント=“呼ばれてもいないうるさい転入生”にならないように。基準としては、クラスで一番目立つ人以上の声の大きさで情報発信はしない方が◎。
ということです。

まず、イノベーター理論で分類される各グループについて、一般的に言われている特性+私が感じる所感は以下の通りです。


1)イノベーター

「革新的なものや考え方を進んで採用する。“吟味する”というより“とりあえず試してみる”という高いチャレンジ精神リスク許容度がある(≒経済的に豊かな傾向がある)。イノベーター同士で群れる傾向がある。イノベーターは嗜好が偏っていることも少なくなく、このグループが受容しても他の層に普及する可能性が高いとは限らない。」などがよく言われる特性。

SNSなど個人がメディアを持つ現在では、仲間内のの交流に留まらず、インフルエンサーとなるイノベーターもいる。

また、無料サービスの増加や安価でモノやコトを手に入れる手段の増加、C2Cなどで物を手元に残さず市場に循環させる習慣(メルカリでの再販売、etc.)の定着などから、対象となる商品やサービスにも寄るが、経済的に豊かであることがグループの特性とは言えなくなってきている。

イノベーターとしての行動や知見を「自己実現」や「自己尊厳」の核として捉え、時に「ビジネスのための自己資産」として経済価値に変える(=お金を稼ぐ)など、積極的に発信・活用する例も見られる。

ただし、発信には積極的でない旧来のイノベーターもおり、彼らは嗜好や感度が違う他の層との交流より、仲間内での交流を心地良く感じる傾向がある。

2)アーリーアダプター

「採用の時期はイノベーターより若干遅れるが、流行に敏感で、情報収集力判断力も高い。他の消費層への影響力が最も高い“オピニオンリーダー”。イノベーターに比べて“とりあえず試してみる”という傾向は薄く、アーリーマジョリティに共感される価値観をもって、採用するモノ・コトを“取捨選択”している。社交性が高い。」などがよく言われる特性。

意識調査をすると、自分を“イノベーター”と認識しているアーリーアダプターが少なからず出現する(=「意識に関する項目で“イノベーター”を示す行動を自分はしていると答えるが、参考情報は他者の口コミ」など)。

いわゆる“リア充”で、イノベーターと同様にインフルエンサーとなり得る人々。
イノベーター特定の分野で突出する傾向があるのに比べ、どちらかと言うとマジョリティから離れないバランス感覚の良さが見られ、一般消費財のアーリーアダプターは生活意識全般が高い人が目立つ(「化粧品のアーリーアダプターだが、ファッション〜インテリアなど生活全般で意識が高め」など)。「価値観は普通だが、情報感度が高く、行動力がある人たち」とも言える。

インターネットと便利な情報収集手段の普及で、情報探索が容易になった現在(例えば、「人やメディア、ハッシュタグなどをフォローしておけば自動的に情報が流れてくる」など)では、モノ・コトの採用時期に関しては、イノベーターと大差ない場合もある。

3)アーリーマジョリティ

「新しいモノ・コトに少し慎重で、ある程度普及して『良さそう』『リスクがなさそう』と思えてから取り入れる。平均より早くに新しいモノ・コトを取り入れる“ブリッジピープル”。アーリーアダプターやメディアなどの影響を受けやすく、『今はコレが旬』という、最先端でありつつも他の人が認めていることが伝わる訴求に反応しやすい。」などがよく言われる特性。

意識調査をすると、このグループには自分を“アーリーアダプター”と認識している人が少なからず出現する(=「意識に関する項目で“アーリーアダプター”を示す行動を自分はしていると答えるが、モノを購入しているタイミングは彼らより遅い」など)。

4)レイトマジョリティ

「新しいモノ・コトに懐疑的で、大多数が試して『良い』『リスクがない』と確信してから取り入れる。平均より遅く新しいモノ・コトを取り入れる“フォロワーズ”で、他の層への影響力は薄い。この層までを取り入れることができると、ライフサイクルの長い安定した商品やサービス、考え方などになることが期待できる。」などがよく言われる特性。

意識調査において、アーリーアダプターやアーリーマジョリティのように自己認識がズレている例は、少なくとも私が経験する限り、このグループではあまり見られない。

新規性のモノ・コトが投入されにくい成熟市場が増えたことや、日本社会そのものが成熟し、モノ・コトを選ぶ基準として「新規性」を重視する傾向が以前に比べて弱まっている(「新しさ」より「自分の生活や価値観へのなじみ」を重視する傾向が強まっている)カテゴリーもあることからも、このグループの存在感は増している。

ただし、新規のモノ・コトに「懐疑的」というよりも「興味が薄い」傾向があると個人的には感じている。ラガードのような頑なさはないが、単純に「新しさ」を重視していないので、何かのタイミング大きな理由流行っているなどの状況がないと新しいモノ・コトには手を出さない傾向が見られる。

5)ラガード

保守的で、新しいモノ・コトへの関心が薄く変化を嫌う。これまでの習慣や使用品を変えることを面倒に感じたり、不安に感じる“伝統主義者”。」などがよく言われる特性。

※私自身は、この層に関する知見が薄いです。というのも、この層が多く出現する例に、過去の調査などで当たったことがないので。おそらく、私が担当しがちな商品やビジネス分野などの影響だとは思いますが、特に、「習慣化したモノ・コトが変わることを怖がる」などは、親など身の回りの高齢者を見ていると強く感じることがあります。
この層に変化を求める時には、障壁となっている要素をしっかりと取り除く取り組みが必要になりそうですね。


 

以上から私が強く感じるのは、イノベーターやアーリーアダプターの情報発信に対して「いかに企業が声のボリュームを抑えるか?」が、時にSNSでは大切だろうということです。

というのも;

マジョリティは、企業よりも一般人に「コレは良い」「リスクが少ない」と言ってもらいたい。
同時に、イノベーターやアーリーアダプターを中心に、喋りたい&聞いてもらいたい人は既に多くいる

ということが各グループの特性からは見え、その関係性を壊さず・いかに上手く回すか?に注力した方が、行動者の意に沿った情報提供のフローであると言えるからです。

 

声の大きさの基準は?

どの程度抑えるか?」の基準としては、モデルとなる発信者を1人なり数人選定し、その発信者のボリュームを上回らないようにすると良いでしょう。

これは、転入生今時の学校でクラスに馴染むために求められることに似ているような気がします。
昔は「転入生」というだけでチヤホヤされることもありましたが、今は、既に出来上がっているバランスやカーストを壊されることを嫌い、むしろクラスになじめない等の阻害の懸念が高いと聞いたことがあります。昔もそういうことはありましたが、今時はその傾向がさらに強いのかもしれません。

SNSにおいても同じことが言え、喋りたい・聞いてもらいたい人+聴衆の関係性・キャラクター付け出来上がっている所に、呼ばれてもいない声の大きい転入生(=宣伝力がある企業)が入って来ても、正直、邪魔としか思われなそうですよね。

 

声の大きさを含めた 3つの注意点

コンテンツなどが適切である前提において、企業など宣伝したい側が情報をSNS上のターゲットに届けるために注意すべきことは;

発信したい一般人達の声を大きくすること
発信したい一般人達の晴れ舞台を奪わずに情報を与える
自身の声のボリュームは、目立つ一般人のそれを超えないこと

という“声の大きさ”を含めた3点が重要と言えるでしょう。

発信したい一般人達の声を大きくすること

1点目は、いわゆるバズを仕掛けたり、世間の声を盛り上げること。これが大きくなることで、相対的に企業アカウントの声が目立たなくなるため、企業アカウントが出せる声のボリュームの自由度が上がります。

この点に関しては、SNSに取り組む企業等はどこでも力を入れていることでしょうから、詳述を省きます。

しかし、後者2点については、なかなかできていなかったり迷いがある企業などもあるのではないでしょうか。

発信したい一般人達の晴れ舞台を奪わずに情報を与える

この点については、いろいろな方法が想定できるでしょう。

ダイレクトにアプローチしたり、感度の高い人のみにリーチするようにメッセージを発したり、盛り上げたい場所と別のメディアや異業種のアカウントから発信してもらうことで感度の高い人が先に情報に触れるようにしたりなど、選択の幅は広い気がします。

いずれにせよ、インフルエンサーやインフルエンサー志向の高い人達を通して情報が発信される方が、マジョリティの抵抗は薄くなるという特性を活かし、彼らを通した情報拡散が理想的と言えます。

自身の声のボリュームは、目立つ一般人のそれを超えないこと

声のボリュームに関しては、一般人より大き過ぎる企業や組織も、まだまだ多いような実感がします。
ツイッターやインスタグラムで企業の投稿だけ浮いて見えたり、あとはこんな例も。↓

(画像出典:https://marketing-rc.com/report/report-video-20180320.html)

出典元の記事には「最も不快感を持つのは、『Webサイト』の動画広告」という見出しがついていますが、MixChannelを除いて、ほぼ全てのメディアで60%以上(LINEは58.7%)の人が「動画広告を不快」としています。

動画は目立つ(=声が大きい)コンテンツですから、上手くハマれば効果が高いものの、そうではなかった場合には不快感を持たれ易くなるわけですが、後者の経験をしている閲覧者が少なくないことが数字で現れています。

あと、コチラに書いた米P&G社の例も、おそらく内容と手法の両方で、声が大き過ぎたのかもしれません。

逆に、ツイッターやインスタグラムなどの使い方が非常に上手な企業などが、顧客の輪の中に自然に溶け込んでいる例も多く見られますよね。そういった例では、顧客側が盛り上がって声を大きくすることができている(企業側の声が大きくても目立たない)場合も大いにあるでしょうが、企業アカウントの声のボリュームがちょうど良いケースもあるな…と、今回、改めて感じました。
まさに「空気が読める人気者の転入生」が気づいたら「人気者のリーダー」になっていたという感じです。

声のボリューム=主に内容の伝え方頻度と言い換えて良いでしょう。
コチラ米GAP社の例も、自分は喋り過ぎずに、顧客に大きく喋らせることができた好例だと思いますが、内容の伝え方(=言葉で明示せずに写真でほのめかす)が静かだったことが、成功の鍵の1つと考えられます。

 

小さな声で伝えるための1つのポイント

では、企業などの組織アカウントは大声で喋らずにメッセージを伝えるために、何をすべきなのでしょう?

色々な答えがあると思いますが、
見る人にセレンディピティを与える
というのが、1つのキーではある気がします。

上の米GAP社の例もそうですが、セレンディピティ予想外の素敵な出会いに触れると、気持ちが高揚して、喋りたくなりますよね。そのような経験を繰り返し与えてくれるアカウントには、個人か組織かの別に関わらず、人がついてきてくれるように思います。

 

…と、長文になってしまいましたが、ネットを情報過多にしているプレイヤーの顔がより明確に見えた気がしたので、共有しておきます。

SNSでの販促は1つ1つの施策のさじ加減が難しいですが、非常に面白いですよね。